第4章 夜桜月見と三日月宗近.. 𓈒𓏸
桜の根元で並んで座り、ゆっくりと流れる風の中で花びらがふわりと髪に触れる。
三日月は穏やかな微笑を浮かべながら空を見上げ、美桜もつられて夜空を仰いだ。
『……今日は、満月だね』
「そうだな。桜と月――見事な取り合わせだ」
美桜は月を見つめたまま、ふと月に向かって指を伸ばした。
白く光る月を、まるで手に取るように――その指先に、そっと乗せるようにして。
『こうすると……指輪に乗ってる真珠かダイヤモンドみたい…』
自分で言って、少し笑ってから慌てて続ける。
『あっ、三日月は指輪分かんないか……現代の物なんだけどね? えっと、指にはめるものなんだけど――』
言葉を探す美桜の隣で、三日月は静かに美桜の手を取った。
そのまま、指先を包み込むように持ち上げ、目を細めて微笑む。
「ふむ。こういう物か……?」
ゆっくりと、主の薬指に隠し持っていた指輪をはめる。
月光が差す中で、指輪は小さく輝き、二人の間に静かに光を落とした。
『っ、三日月……これって……!』
美桜は思わず自分の指を近付け、指輪と三日月を交互に見つめる。
「気に入ったか……?」
低く囁かれた声に、美桜の心臓が一瞬止まったように感じた。
花びらが夜風に揺れ、二人の間に淡く舞い落ちる。
美桜は指輪がはめられた指先を握ったまま、目を見開いて三日月を見上げた。
『ど、どうして知ってるの……!?
この指輪、どうしたの……!?』
三日月は微かに笑みを浮かべ、そっと指先を主の手に添える。
その動作は言葉以上に、指輪以上に、すべてを伝えているようだった。