第3章 夏祭りと山姥切長義.. 𓈒𓏸
本丸の広い庭に、夏祭りの音と光が溢れていた。
赤や白の提灯が軒先にぶら下がり、屋台からは香ばしい匂いや金魚すくいやヨーヨー釣りをする短刀達の声、太鼓や笛の音が混ざって、心が自然と浮き立つ。
私は審神者部屋で刀剣男士達のリクエストで浴衣に着替え、皆のいる庭に降り立った。
浴衣の裾をそっと整え、賑やかな景色を眺めながら
いつもは下ろしている髪を結い上げて、ふわりと靡く風と髪を撫でる感触が心地よく、少しだけ恥ずかしいけれど、胸の奥がぽっと温かくなる。
「主ちゃん、浴衣よく似合ってるね!」
屋台に食材を運ぶ光忠に会い、光忠の笑顔に誘われ私は小さく微笑んだ。
『ありがとう』
焼きそばの香ばしい匂いが立ち上り、屋台の前では短刀と保護者的立ち位置の男士たちが連れられ、わいわい盛り上がっている。
相変わらずの歌仙の手際の良さや、陸奥守や鶴丸の元気な声も混ざり、庭全体がまるで生きているかのように躍動していた。
祭りの準備から仕切り役に徹していた長谷部や、屋台の設置に駆り出されていた山伏や同田貫、祢々切丸や三名槍の三振りの姿も遠目に見える。
長谷部の少し怒ってる声や蜻蛉切達の落ち着いた声に短刀や脇差の子達のはしゃぐ笑い声が絶妙に混ざり、祭り全体を引き立てていた。
私はそんな景色を眺めながら、胸の奥にじんわりとした期待を感じる――4日前、修行に旅立った長義が戻って来ているのだ。
修行から帰って来てすぐに一度会ったが、本丸のみんなに引っ張られるように長義は連れて行かれ、修行での話を聞こうとみんなに取り囲まれていた。
修行前と変わらず、仕方無さそうな表情はしていたが
律儀に答える辺り、そこは少し修行に行って変わったのかなと思いつつ、私はそんな長義を遠目に見ながら仕事に戻った。
今日はみんなのリクエストで夏祭りを本丸で開いていた。
みんなに取り囲まれてやっと開放された長義とこれからの時間はきちんと話せる。長義にとっては久しぶりの再会、私にとっては4日ぶりの再会になる。