第13章 13
かかしサイド
「あれからいろいろ考えてね…でも俺がほんとに誰かと人生を歩むことがいいのか、また誰かを好きになっていいのかわからなくて。自分の気持ちにはもうとっくに気づいているのに、なかなか前に進めなくてね。」
えまは静かに前を見たまま聞いていた。
「でもこのあいだ、えまと香蓮のお墓参りにいって、香蓮と最後に交わした会話を思い出したんだ…
香蓮は、俺にまた前を向いて進んでほしい、誰かと人生を歩んでほしい、幸せになってほしいって言ってた」
俺は、少しえまのほうに体をむきなおした。
「えま、本当にこれまでのこと感謝してる。
俺はえまが、とっても大切だし大好きだよ。
遅くなったけど今度は俺だけの幸せのお手伝いじゃなくて、二人で幸せになれるように歩んでいかない?」
前をずっとみすえていた彼女が、驚いた表情で俺を見上げていた。
すっとえまの両手が俺の頬を包み、ぐっと引き寄せられた。
こつんとお互いの額がぶつかり、彼女が笑ってつぶやいた。
「かかし先生…大好き」
きっと彼女は、照れた顔を見られるのが恥ずかしくて、こうして額を合わせてきたのだろう。
「顔…ちゃんと見せて?」
そういうと、ゆっくりお互いの額が離れていくが、彼女の緊張感がその両手から伝わってくる。
大きな瞳がまっすぐ俺をとらえたと思ったら、恥ずかしそうに目線を下にむける姿に愛しさを感じた。
もう一度、二人の視線がぶつかった時、俺はマスクを下にさげた。
そのまま二人の鼻先がぶつかる。
重ねたぬくもりから、互いの感情がいっきにあふれだした。
俺たちはこれまでの時間をうめるように何度も唇を重ねた。