第11章 11
かかしサイド
最近香蓮の容態には波がある。
会いにいっても、寝顔を眺めるか、ただ体をさすってそばにいることしかできない日も増えた。
死期がせまってきているのだろう。
えまも気づいているはずだ。
今日、香蓮はベッドの背もたれを起こし、座って待ってくれていた。
俺がいくと、えまがいつも通り部屋から出ていく。
香蓮はにっこりと笑って俺を迎えてくれた。
今日は調子がいいようだ。
「かかし。今日はさ、大事な話がしたくて。」
「大事なはなし?」
「うん…かかしもだんだん気づいてるよね?
私の死期が近いこと…」
「‥‥」
俺は否定も肯定もできず黙ってしまった。
「えまのこと…どう思う?」
「…どう思うって…どういうこと?」
「だって…私がいなくなったら、かかし…寂しいでしょ?
その…えまになら、かかしを任せてもいいかなって…」
「‥‥」
死期をさとっている彼女を前に、俺はすぐにそれに対する返答ができなかった。
「かかし。私はかかしのこと大好きだよ。
でも私が死んでも私を好きでいてほしいなんて言わない。
かかしには、また新しく誰かと人生を歩んでほしいと思ってる。それに、毎日私のお墓にきて、後悔や反省を語られても、私も安心していけないじゃない?」
「でも、俺が愛してるのはお前で…」
「わかってるよ。でも私だって死んでまであなたを縛りたいとは思わない。私も女だよ。えまの気持ちくらいとっくにわかってる。あの子と知り合ってほんの数か月。でも期間なんて関係ない。短くても深く深くかかわれた。あの子にも、どうしても幸せになってほしい」
俺はまた何も言えなかった。
「とりあえず、私が死ぬまでにこれははっきり伝えたかった。でも人の気持ちは簡単じゃない。私の思うようにはいかないかもしれない。でもかかしとえま、万が一繋がらなくても、二人には幸せになってほしい。」
「…わかったよ‥」
こんなことを言わせたかったんじゃない。
俺は君を守って、幸せにしたかったのに。
運命とは残酷だ。
更に細くなった香蓮の体を包みながら、また二人で涙をながすしかなかった。
何度も覚悟を決めても、その覚悟はくずされ、何度も泣いても涙は枯れない。
きっと「その日」が来るまで。