第1章 ひまわり×家康
(家康side)
ちよがひまわりとやらを見たいと言った。それ自体は叶えてあげたいし、俺自身その花に興味が無いわけではない。ちよとはいろんなことを二人で体験したいと常日頃から思っている。それが初めてのことなら尚更。
だけど、ちよが着ていくといったあの着物…
きっととっても似合うのだろうけれど、俺としては気が気ではない。まして他の男の前でちよの肌が晒されると思うと…
「…やっぱりアレだけはやめさせようかな。」
「はっ、今何と?」
しまった…また声に出ていたか。
ここ最近、同じことを考えては独り言を呟いて、部下に尋ね返されることを繰り返している。
「いや、何でもない。悪いんだけど、この書類を軍議までに整理して席に置いてくれる?」
「はっ」
俺から書類を受け取ると、その部下は大広間に向かって去っていく。
一人残された廊下で気を引き締める。ちよが楽しみにしているんだ、俺のわがままでそれを損ないたくない。大人になれと言い聞かせて落ち着きを取り戻そうとするも、それはすぐに崩された。
「あれは… ちよと…秀吉さん?」
廊下の先、遠くに見えた人影は見間違うことのない愛しい人の姿。
部屋から出てきた二人が何か楽しそうに話している。かと思いきや、しばらくするとちよがいかにもガッカリした素振りを見せ、秀吉さんの手がその頭に乗せられた。
「っ…」
秀吉さんはちよのことを妹のように大切にしてくれてるんだ。意味はない、分かってる。
だけど、心の中で焦りとも悔しさともつかない感情が渦巻く。ちよが他の誰かに触れられるだけで、おかしくなりそうだ。
二人がそのまま別れた直後、今度はすれ違いざまに政宗さんと光秀さんとも何か話しだす。内容は聞き取れないけど、親しげなその雰囲気に再び胸が痛くなる。
「こんなんで大丈夫かな、俺。」
ちょっとした日常会話でこの有様だ。
最近、ちよへの想いが増している気がする。当日ちよの前で冷静でいられるか、不安だった。