第2章 しろつめくさ×秀吉
「これ、持っていってほしいの。」
「! この形…もしかして…」
「四つ葉のクローバー…の形のお守り。結局見つからなかったから…。」
秀吉さんの元に幸運を運んでほしいと思いを込めて作った。着物を作る時に余る布地を縫い合わせて綿を入れて、四つの葉の形にして差し合わせただけのシンプルなものだけど。
「この柄、あの日買った反物だな。」
「うん。…ごめんね、本物じゃなくて。」
「いや、ちよが作ってくれたこっちの方が嬉しい。
四つ葉だと、願いが叶うんだったな。」
そういうと、秀吉さんはお守りを額に当てて、ゆっくりと目を閉じる。凛々しく、どこか真剣に見えるその顔に見惚れる間もなく、数秒で再びその目は開かれた。
…何かを願ったのかな。
「ありがとう。いつもそばに持っておく。」
「いってらっしゃい!秀吉さんが帰ってくるの、待ち遠しく思っておくからね。」
「あぁ、必ず戻る。」
そして、秀吉さん達は出発した。
そこからの日々は本当に長く感じた。時折、出陣先から安土城へ報告がくるけれど、遣いの人が来てくれる頃には現地の戦況は変わっているかもと思うと、心の底から安心できる日々はなかった。
けれど秀吉さんと約束したから、私は恐れることなく、来る日も来る日も彼の無事を祈った。
帰ってきたら渡そうと思って、あの若葉色の布地で羽織も作っていた。何十日経ったのだろう。その羽織も完成して、不備を見直すどころか刺繍なんかも施せてしまうほどの時間が過ぎていった。
………
……
…
そして、あのシロツメクサも枯れて次の世代へと繋ごうとしている頃。やっと秀吉さんが帰ってくるという連絡が来た。
「ちよ様、そろそろ城へ参る準備をしましょう。お戻りの時間が近づいてきましたよ。」
帰城予定の日、部屋で支度をしていると女中さんに声をかけられた。
「もう出来てますよ!早く行きましょう!」
「ふふっ…そんなに急がずとも、秀吉様は逃げませんよ。」
私の喜びようは隠しきれなかったらしく、女中さんたちが部屋の外からからかってくる。久々に会えるし、無事に帰ってきてくれることが嬉しいから、待ちきれなくて、一人で準備を済ませてしまった。