第2章 しろつめくさ×秀吉
最後に簪をさして鏡で身なりを確認して…いざ向かおうと部屋を飛び出した瞬間に、何かに勢いよくぶつかってしまった。
「す、すみません!…って秀吉さん!?」
「ははっ、慌てすぎだ。」
さっきまで女中さんが声をかけてくれていた障子の先にいたのは、ずっと待ち続けた人だった。バランスを崩しかけた私の体を咄嗟に受け止め、肩を押さえて支えてくれる。
「えっ!えっ?なんで!?お城に帰ってくるはずじゃ…あっ、お帰りなさい!」
「落ち着け、ちよ。」
可笑しそうに笑う秀吉さんと、周りでくすくすと笑う女中さんたちの様子から、私だけが知らされていなかったのだと気づく。
「ちよが数日前から待ちきれない様子だって聞いてな。俺も早く会いたくなって、飛んで帰ってきた。」
「秀吉さん…」
「彼女たちに頼んで黙って帰ってみたけど…いつもこんな風に迎えに行こうとしてくれてるんだな。知れてよかった。」
秀吉さんの手が頭におりてきて、優しく撫でられる。じんわりと外側から伝わるぬくもりが、生きて帰ってきてくれたという実感となって、喜びの涙で視界がぼやける。
「よかった…帰ってきてくれて。おかえりなさい。」
「ただいま、ちよ。」
改めて言葉を交わし、目を合わせて笑う。いつの間にか女中さんたちも下がっていて、私たちはそのまま部屋に戻った。
「あっ、帰ってきたら渡そうと思ってたものがあるの。」
「ん?なんだ?」
「じゃーん!あの布で作った羽織!」
「へえ、よくできてるな!…けど、俺のものばかり作ってもらって悪いな。気に入った布地だったんだろ?」
「ううん、もともと秀吉さんのものを作ろうと思ってたから。」
「そうか…ありがとう。」
羽織を広げようとした時、秀吉さんの手が私の手に重ねられて制止された。
「秀吉さん?」
「悪いが…後でもいいか?
…着てもすぐに脱ぐことになる。」
瞬時に言葉の意味を理解して、一気に身体が熱くなる。
秀吉さんは懐に手を入れて、何かを取り出した。それは、出陣前に渡したクローバーのお守りだった。
「これに願ったことがあってな。まだ叶ってないんだ。」
「えっ、必勝祈願とかじゃなかったの…?」
「うーん、当たらずとも遠からずってところだな。」
「じゃあ…願ったことって…?」