第5章 ふわりふわり揺れる思い
ウトウトして、侑君の話を相槌打つだけになる。
『沙耶・・・』
「うん…」
優しい声で名前を呼ばれる声は、傍にいて頭を撫でてくれているようで居心地が良い。
『眠くなった?えぇよ、そのまま寝てても。
寝付くまでしゃべろうって、言うたもんな。
安心して沙耶、相槌打てなくてもえぇねん。
俺の話聞いてくれるだけでえぇねんから』
「ごめん…ね…私…もうダメか…も」
『可愛い、寝落ちの沙耶の声ってこんなんなんや』
「あつ…む・・・」
いつもは、君づけで名前を呼ぶのに、侑君の優しい声に誘われて甘えてしまう。
『ほんま、頭なでなでしてキスしたなる』
心地いい…夢の中に落ちていく。
夢の中で、手を繋ぐ私と侑君。
場所は…水族館?
「あつ…む・・・行きたい…」
『どこ、行きたい?』
「う…んっ…あつ…む…すい・・・ぞ…連れて…行っ…」
眠くて思考が回らない。
頭の中は、海の中を泳ぐ魚みたいに浮遊している。
小さい頃、治君と侑君と行った水族館に行きたいな。
『眠そうやな、でもどこ行きたいか言ってくれんと連れていけへんで』
「すい・・・ぞく…か」
『うん?水族館か?そう言えば、小学生の時皆で行ったよな。
ジンベエザメとか小さい魚見て、沙耶めっちゃはしゃいどったな。
今度、二人だけで行こう』
「ふた…り・・・」
『そうや、俺と沙耶と二人きりや』
「う…ん…」
『約束やで、もう寝れそうか?怖い夢なんて見ないから安心しや。
楽しみがあると、良い夢見れるで』
「あつ…む…」
『うん?』
また、夢の中で侑君と手を繋いで、水族館で笑っている。
「あつ…む…一緒に…いこ…」
『あはは、そうやな行こうな!楽しみや・・・沙耶おやすみ』
おやすみも言えないまま、また夢の中へ。
彼と行く水族館の夢は、笑顔が絶えなくて後から抱きしめてくれる侑君の腕は、温かくて楽しそうだった。
それが、現実に二人きりで行ったことで、聖臣と侑君との間で気持ちがこんなに揺れるなんて思わなかった。
加速する5人の気持ちが交差して、心が複雑に絡み合っていくのは、もう少し先の話。