第2章 最悪な彼奴ら
聖臣side
深い溜息を幾度となく吐いては、辿りつけない結論に嫌気が差す。
さっき聞いたばかりの稲荷崎との合同合宿、その裏で親父達が動いていることも、その渦中には沙耶がいること。
なぜか、兵庫に行くことを推し進めようとする先生と宮兄弟、ここにいる事自体も何もかも不快でならなかった。
「ただ、この渦中に沙耶が関わっている事と、父さんと南條先生の真意が気になるだけだ」
「真意ねぇ?」
まただ、胸の奥がジワリと不快感に囚われる。
南條先生から、揶揄っているのか遊ばれているのかわからない。
「なぜ…このタイミングで宮兄弟を呼んだ?」
「タイミングは…最悪、聖臣君は、賢いからやだな~。
侑や治みたいだったらスムーズなんだろうけど。
単刀直入に言う!兵庫って言うより京都に名医がいる。
その人は、俺や和臣の恩師であり、脳神経外科の第一人者だ。
沙耶はあの事故で、頭から大量の血を流している。
遥は、体の内部…主に臓器の損傷、沙耶は…恐らく手足損傷よりも外傷性脳損傷によるなんらかの影響が出ていると推測されている。
目覚めても記憶障害や運動障害が出る可能性が高い」
何を言っているのか理解できない。
「あんた、なんで黙っていた!!バレーが出来ないどころの話じゃない。
目覚めても記憶障害や運動障害が起きていたら、何も無くなるじゃないか!」
「そうだ…俺と和臣の判断はそこだ。
例え目覚めても記憶がなければ、ここに留まる必要もない。
お前達の事も忘れる…大好きなバレーの事も事故に合った事や母親さえも、最悪自分自身も忘れるだろうな。
医者は、神様じゃない…全てを救ってやれない。
たった一握りだけの命…遥も沙耶もその内の一つだ。
沙耶は、すぐにでも目覚めると考えていたが、一向に目覚める兆しがない。
でも、人間の思考って眠っていても周りを見ているものだ。
これは、俺の推測でしかないが…沙耶が、もしこの状態に絶望して目覚める事自体拒否をしていたらーどうなる?」
さっきから他人事のように語る医者の面に、拳が強く握られ今にも殴りかかる勢いだった。
「あかん、そんなのあかん…今までの事も自分自身も忘れるなんてあかんよ」
黙って聞いていた、宮治から冷たい眼を向けられていた。