第1章 呼吸
ピーピーと心音が、静寂な病室に響き渡る。
身体に巻きつく線の束は、生と死の境目にいる私を縛り続けている。
身体中が痛くて、目も開けられない。
誰かが、愛しそうに名前を呼んでくれる。
それが誰なのか確認したいけど、無理そうだ。
どうしてそうなったのか?
あれは、一瞬だった。
春から都内のバレーの強豪校である井闥山学院に進学。
幼馴染みの佐久早聖臣とその従兄弟である古森元也と一緒だ。
聖臣と元也と共に一年生ながらレギュラーをとり、バレーのインターハイに出場。
男女共に優勝を果たした祝いに、母親と行きつけの寿司屋に行った帰りだった。
母一人子一人の生活。
女二人だと何かと大変ではある。
でも、マンションのお隣同士だった聖臣とは、親同士仲が良く助けて貰う事もしばしば。
それもあって、子ども達も普通に行き来する仲。
大概は、成長するにつれて男女の仲がギクシャクすると思われがちだか、私達の間にそういったこともなく、高校生になっても変わらず側にいてくれる。
だから、母も聖臣に私を任せっきりだったのは言うまでなく、遅くまで仕事をこなしていた。
自称スーパー保険レディだと豪語する母親。
業績もトップクラスで社内の信頼も厚く、母子家庭の割には、多少裕福な生活を送れている。
それも、母親の頑張りだったと思うから、あの日もほんの少しの贅沢をして幸せと母に対して感謝の気持ちでいっぱいだった。
その幸せも束の間…。
横断歩道を渡ろうとした寸前、大きな光に包まれた。
トラックが、歩道に向かって突っ込んできたのだ。
エッ!と思った瞬間、キキキィと音が鳴り、クラクションがけたたましく鳴り響いた。
咄嗟に動けなくなった私を覆い被さるように、母が抱きつく。
辺りは、一瞬にして真っ暗になり、救急車!と叫ぶ声が怒号する。
今、何が起きているのかわからず、薄ら目を開けた時には、救急車のサイレントと横に倒れている血塗れの母親の姿が見えた。
私も頭から血がでて、右足と右腕が変に曲がっている。
辛うじて手足が、繋がっていることが幸いだと思えた。
そんな風に思うこと事態、変に冷静だと自笑してしまう。
けれども、だんだんと呼吸を吸う度、体中に激痛が走るため耐えられず、フェイドアウトした。