第6章 文化祭 *
聖臣side
見開き驚く沙耶に、言い聞かせるよう誘導する。
「交流試合の相手は、稲荷崎高校」
「稲荷崎高校って!侑君や治君の高校?」
「あぁ、この試合を見に来て欲しい」
沙耶に見て感じて欲しい。
バレーをやっていた頃のように、俺達のプレーをも見て笑って欲しいんだ。
ただ…気掛かりな事は、いくつかある。
一つは、今日みたいに記憶障害の影響で、体育館に行くことを拒否している事。
過呼吸を起こしてしまったから、トラウマになってないか心配だ。
もう一つは、バレーをやっていた記憶をまだ思い出せていない。
この試合で、もし事故にあった日の事を思い出して、もうバレーが出来ないって分かったしまった時の沙耶の反応が怖い。
どのくらい、取り乱してしまうかも検討がつかない。
かなり博打に近いやり方だ。
傷に塩を塗りつけて、ジュクジュク赤い血を垂れ流すように沙耶は、傷つくかもしれない。
考えれば考える程苦しくなり、手の震えが止まらない…怖くて堪らないんだ。
「聖臣…手震えてる…よ」
「ごめん…沙耶…ごめん…」
「なんで聖臣が、謝るの?何も聖臣は、悪いことしてないじゃない? 」
今度は、沙耶から震える俺を抱きしめてくれる。
優しくて暖かい沙耶。
沙耶の方が、不安でいっぱいで堪らないはずなのに。
俺が、弱気になってどうする!俺が、守ってやらないといけないから。
傷つけさせない…沙耶の恐怖を少しでも取り除いてあげたい。
「沙耶…明日、部活を見に来て欲しんだ。
俺も元也もいるから、絶対一人にさせないし近くにいるから、傍にいてほしい…ダメか?…」
沙耶が、嫌なら無理に連れてはいけない。
逃げ道を作りつつ、懇願に近い言い回しで返事を待つ。
「体育館…聖臣も元也が傍にいてくれるなら、頑張って行ってみたいな。
けど、今日みたいになったらどうしよう」
不安もあるが、行きたいと前向きに言う沙耶は、やっぱり強い人だ。
だからこそ、支えてあげたい。
「大丈夫だよ、俺が傍にいるから」
「分かった…頑張る」
「ありがとう、沙耶」
首を横に振って、抱きつく沙耶を俺からもう一度抱きしめ『ありがとう』と伝えた。