第6章 やがて糸は火となり繭となる 2
ユウは石段から立ち上がると軽くお尻を払う。そしてフロイドに向き合った。
「先輩。遅い時間まで付き合って頂きありがとうございました」
笑顔でそう言う彼女は、遠回しに「早く寮に帰ってください」と伝えていた。
しかしフロイドは動かない。
仕舞いには両手をユウに向かって伸ばし、「立てないから引っ張って」と言ってきた。
ユウの力では絶対に彼を立たせることはできない。そんなものやってみなくてもわかるが、このまま放置してずっとここに居座られても困ると思ったユウは仕方なしフロイドの両手を掴んだ。
ふんっと力を入れ引っ張るユウ。しかしフロイドはまったく動かない。
「小エビちゃんちゃんと引っ張ってよー」なんてフロイドは野次を飛ばしているが、この男、まったく立とうとしていない。
ユウは眠いこともあり、段々とイライラしてきた。
「ちょっと、フロイド先輩」
少しムッとした声でフロイドを呼べば、グイッと反対にユウの手が彼に引っ張られた。
しっとりと柔らかく、少し冷たいものが彼女の頬に触れる。
それがフロイドの唇であったことに気づいたのは唇がユウの頬から離れた数秒後のことだった。
「おやすみ、小エビちゃん」
呆気に取られる彼女をよそに、フロイドはマジカルペンを振るとそのままパッと姿を消した。
暫くその場に立ち尽くすユウ。
そして漸くふらふらと寮の中に入ると、すでにベッドでスヤスヤと寝息を立てているグリムのお腹に顔を突っ伏した。
心を落ち着かせるためにスゥっと思い切りグリムを吸えば……午前12時15分。オンボロ寮にパチンと小気味良い音が響いた。
ユウがグリムに猫パチンされた音である。