第4章 マザーとグースとお嬢さん
「……ジャミル先輩」
「ん?」
「私、先輩の笑った顔。好きですよ」
ジャミルはポカンとした表情を浮かべると、すぐに右手で口元を隠す。
手で隠れてしまっているが、その頬は少し赤く染まっていた。
後15分でお昼休みが終わる。
まだユウは体育着のままだったため、そろそろお開きにすることになった。
ユウはもう一度弁当が美味しかったことと、弁当とプレゼントのお礼をジャミルに言った。
ジャミルは「気にするな」と言うと、「じゃあ」と手を上げ彼女に背を向ける。
「ジャミル先輩!」
ユウは去って行くジャミルの背中に声をかけた。
不思議そうな顔をして振り向くジャミル。
ユウはすぅっと息を吸い込む。
「ジャミル先輩。今度あった時は、私のこと名前で呼んでくださいね」
そう言うと、ユウはそのままジャミルに背を向け走って行った。
緊張した。
凄く緊張した。
喉はカラカラで、声は少し震えていた。
それでもにこりと笑顔を浮かべ、ずっと言いたかったことを言えた。
ユウは走る。
段々とその速度を上げ。
真っ赤に染まったその顔を誰にも見られないように。