第1章 シュガーリィは魔法仕掛け
「ちなみに、この薬の効果は1週間程で切れるだろう。薬が切れる前にその糸の先を辿ってみるのも一興だな」
フッと鼻で笑ったクルーウェルにユウは頭を下げ、錬金術・魔法薬学研究室から出る。
後ろ手に扉を閉めながら研究室から東に向かって伸びる赤い糸をユウは一瞥した。
ユウには想い人がいる。
その想いはほんのつい最近自覚し、まだ小さくも淡い恋心を彼女は誰にも吐露することなくゆっくりと育てていた。
しかしユウはその想い人に告白をするつもりはない。何故なら彼女は異世界から来た身。いくらこの世界に愛着が湧こうとも、彼女はいずれ帰らなければならないのだ。
告白して、それが良い返事ではなかったとしても、少なからず相手の心にしこりは残ってしまう。ユウはそれが嫌だった。
きっとこの話をエースやデュースが聞けば、「はぁ?本当にそれでいいのかよ!?」と、顔を顰めるに違いない。
もしこの糸を辿って着いた先が想い人でも、そうじゃなくても、おそらく素直に喜ぶことなど出来ない。何故ならユウはこの世界の住人ではないのだから。きっとこの世界の住人だったのなら、年頃の少女らしくはしゃぐことが出来たのかもしれない。
ユウは糸から視線を逸らすと、オンボロ寮へと帰るべく、西へと足を進めた。