第1章 Last summer vacation
それから暫く日が経ち、夏休みも半分過ぎた頃。涼しい鳴き声が周りに響く時刻に、突然それは起きた。
叔母さんと夕食を食べていると、ドンドンドンと力強く玄関を叩く音がした。インターフォンというものを知らないのだろうか。あまりの音の大きさに、私も叔母さんも反応が遅れる。もしかしたら不審者だろうか。もう一度ドンドンと聞こえたので、叔母さんが咄嗟に近くにあったフォークをもち「どなた?」と応える。
「夜遅くにすまねぇな。ユウキを迎えに来たんだ」
自分の名前が出たことにドキリとする。今どきの誘拐犯はこんなにもご丁寧に言うのだろうか。冷や汗をかく私と対称に、叔母さんは肩の力を抜き、玄関の扉を開いた。咄嗟にスプーンからフォークへ持ち帰る。
『ちょ、叔母さ──』
「ハグリッド、びっくりしたじゃない」
まさか扉を開けると思ってなかった。そこに立っていたのはかなり大柄な男。動物に例えるなら熊だ。さらに驚いたのは叔母さんがこの男と知り合いということだ。
「久しぶりね。急にどうしたの?」
「さっきも言ったが、を迎えに来たんだ。いろいろ必要なもんがあるだろ?その役に俺が選ばれたって訳だ」
「迎えに来たって…もしかしてホグワーツ?何も知らせがなかったから、この子は関係ないのかと…」
「知らせがない?遣わせたフクロウは無事戻ってきたぞ?」
「……。フクロウが来たの?」
そこで初めて話題を振られる。2人の顔を見合わせ、状況を整理しようとするが、私の頭ではキャパオーバーだ。何も反応がない私に、叔母さんが質問を変えて聞いた。
「。ホグワーツから手紙が来たの?」
ホグワーツ、手紙、フクロウ…あの日の出来事のことを思い出す。まだよくわからない私に出来たのは頷くことだけだった。
「……なんてこと」
大きく息を吐いて椅子に座る叔母さん。そんなに大事なのだろうか。
『…あの、叔母さん。ごめんなさい。私よく分からなくて叔母さんにも言えなかったの』
「、おいで」
ゆっくりと叔母さんに近づくと、少し硬い手のひらが私のそれを包んだ。大男は何も言わず、近くで見守っていた。