第5章 LAST DAY
思い出し笑いをしながら歩けば目的地の目の前、天国法律事務所へとたどり着く。
中に入れば事務のお姉さんがにこりと笑って獄さんが部屋にいることを教えてくれる。
お礼をして部屋に向かうと獄さんの部屋をノック。
獄さんの声がしたから中に入れば、獄さんはパソコンとにらめっこ。
「獄さん。」
「ああ、なずなか。そこ座ってろ。」
わたしを見ずに告げたのは最近のわたしの居場所であるソファー。
はぁい、と返事をして座ると鞄からペットボトルを取り出し一口飲む。
朝買ったミルクティはやっぱり冷たくなっていて、それでもわたしの喉を潤した。
「あー…なずな。」
「何、獄さん。」
「ちょっと…」
獄さんは視線をパソコンに投げかけたまま手招きをする。
仕事中にそんなことするなんて珍しくて獄さんの隣に立てば頬杖をついていない左手でポケットをごそごそと漁る。
「卒業祝い…やる。」
目線を合わせず渡された箱は掌に収まる紫のビロード。
どくん、どくんとうるさい心臓の音を気にしながら開ければ、中からはつるりと丸い、一粒だけ石のはまったピンクゴールドの指輪がきらりと輝いていた。
「ひと、や、さん。」
「卒業祝い……それと首輪代わりに。」
獄さんを見れば画面を見続けている。
でも画面に表示されたWordはカーソルがチカチカしているのみ。獄さんの行動にくすりと笑ったけれど、出た声は嗚咽。
いつの間にか溢れた涙で前が見えない。
溢れる涙は拭いても拭いても止まらない。
「お前は卒業式は泣いてばかりだな。」
声が上から降ってきた。
そう気づいた時にはわたしは獄さんの腕の中ですがるように泣いていた。
違うよ、獄さん。
あの時は悔しいとか悲しいだった。
でも今は嬉しいの。愛しいの。