第4章 DAY 3
「なずな、おっせえな。」
メッセージアプリが来て1時間。
どこかに寄り道をしてもとっくに着いていていい時間だ。
心配でメッセージを送るが未読、電話もコールのち留守番電話。
遅れる時は律儀に連絡を入れるなずなにしては珍しい。
そう思っていた。
不意に鳴る電話。
びくりと体を跳ねさせ、画面を見ればなずなの文字。
ほうと胸を撫で下ろすとボタンをタップし通話を開始した。
「なずな、どうした。途中で調子でも悪くなったか。」
「………」
「…なずな、返事くらいちゃんとしろ。」
「………」
「なあなずな。怒ってねえからちゃんと答えろ。心配してるだけだから。」
何に拗ねてんだ、とため息を吐き次の言葉を吐き出そうとした。
「天国獄さん、ですね。」
相手の声を聞くまでは
「誰だ、てめぇ。」
瞬間的に沸騰しそうになる感情を必死で押さえ仕事用のボイスレコーダーを回すと電話をスピーカーに切り替えた。
「ああ、俺たちの名前なんて知らなくていいんっすよ。あ、分かってると思いますがあなたが大事にしている女の子、連れて来ちゃいました。」
なずなの電話から別の声が聞こえた時点で覚悟はしていた。
それでも背中に冷たい汗が伝う。
「俺たちは貴方達をぶっ潰したいだけなのでこの子はただの"餌"です。貴方達が本気になってくれるためのね。」
貴方達…という事は俺たちチームに因縁がある奴らか。
「でも、餌は餌なりの使いようってモンがあるんですよ。なずなちゃん、可愛いですね。」
感情的になりそうな気持ちを必死で落ち着かせる。
「目的はなんだ、金か。」
「お金は欲しいですが、それよりも貴方達が汚らしく悶え苦しむ様が見たいんです。」
「糞が…」
「場所は南、飛鳥インターチェンジあたりの海沿いの倉庫街。広いですが頑張って探し当ててくださいね。タイムリミットは二時間。では。」
「ちょっと待て!おい、なずなっ!」
叫んだ名前は本人には届かず、無情にも電話の切れた音が鳴り響く。
握った拳をデスクに叩きつけるとその音を聞きつけパラリーガルが部屋へと駆け込んできた。
「どうしましたか!天国さん!」
「悪い…今からの依頼、全部キャンセルに出来ねえか。」
俺の表情を見たパラリーガルは何も言わずに部屋から出て行く。長く息を吐くと、俺は十四と空却に出来るだけ早く事務所に来るように連絡を入れた。