第1章 序章
「お疲れ様、獄さん。」
仕事を終え事務所を出ると掛かる声。
その声にまたかと俺はため息を吐いた。
「なずな、ここには来んなって言っただろう。」
しゃがみ込んだ一匹の猫…もといメスガキの前に立てばそいつはにこりと笑いかけてくる。
「いいじゃん。好きな人の顔見たいんだから。」
「お前の好きはLOVEの好きじゃねえって何回も言ってるだろう。RESPECT…尊敬の好きだ。」
そう伝えればメスガキは立ち上がりわざとらしく頬を膨らませる。
「違うって言ってるじゃん。獄さんの馬鹿。」
「目上の奴に馬鹿とは何だクソガキ。」
べしん、と後頭部を叩けば小さく叫んだガキは2、3歩よろけ、俺を振り返った。
「うわっ暴力だ。弁護士が暴力振るった。」
ひどーい、なんて言葉をベラベラ吐くガキ。そいつの頭をぐしゃぐしゃと撫でると後頭部を掴んで駐車場へと向かう。
「ふえ?獄さん、そっちいつもの駐車場じゃ…」
「今日はバイクだ。メットは十四の使え。振り落とされないようにしろよ。」
そう伝えればガキは嬉しそうににかりと笑って俺の後ろをついてきた。
なんで俺がこんなガキに付き合わされなきゃならないんだ。
嬉しそうな反応をするなずなを見ながら俺は長くため息を吐いた。