第1章 キレたネガティブ社畜は狼になる。
「はあー、相変わらず独歩の部屋は汚いね」
独歩の部屋に足を踏み入れると、深くため息を吐く。同居人の一二三さんはあんな綺麗好きなのになあ。
いや、むしろ綺麗好きな人と一緒に暮らさないと独歩はどこまでもだらしないかも。
「しょうがないだろ、あのハゲ課長のせいで片づける暇もないくらい仕事させられてるんだから」
今日の独歩は何故か機嫌が悪い。会社帰りに待ち合わせしたときからずっとむくれているというか、ブラックなオーラが出ているのだ。
話してもどこか上の空。理由は分からないけど、社畜として働きづめでストレスが溜まっているのかもしれない。
「ああ、一二三は明日の夜までいないから」
独歩はネクタイを緩め、ジャケットを脱ぐと壁掛けのハンガーにつるす。
「そうなの?珍しいね」
一二三さんはホストという仕事柄、独歩とは生活リズムが合わない。でもいつもは朝には帰ってきて、「俺っち、まじ疲れた~」と言いながら自分の部屋に行って寝てしまう。
とは言っても、私が彼と直接顔を合わせたのは一度だけだ。一二三さんはスーツを脱ぐと極度の女性恐怖症らしく、私は独歩の家に泊まっても、彼が部屋に入るまでは出て行かないようにお願いされている。
一度だけ会ったのは、はじめて一二三さんに会ったときだ。私に怯えた一二三さんがスーツを着てホストモードになり、私を口説こうとしたことが、独歩にとってかなり嫌な出来事だったらしく、絶対に会わないよう言われている。