第10章 私じゃない
─おかえりなさい─
いつもなら聞こえる声が今日は聞こえない。
なんだか家の中がガランと静かだ。
もしかしたらソファで寝ているのかもしれない
そう思って見てみたがそこには誰もいない。
いや、部屋の中で寝ているんじゃないか
安室は彼女の部屋の扉を開いた。
安室は唖然とした。
自分が1番あってほしくなかった状態にあったからだ。
普段と明らかに違う彼女の部屋。
物が少なくなっていて机には何も残っていない。
遅かった
安室は頭を抱えた。
あの時彼女を追いかければよかったのか。
ベルモットに疑われてもこんな状態にはなっていなかったはずだ。
安室は部屋を出てリビングの灯りをつける。
ふとテーブルの上に置かれた便箋が目に入る。
それを安室は手にとった。
─安室さん
こんな形でお別れをしてしまう事を許して下さい。私は本来貴方から監視をされる立場であり、その関係を変えてはいけないと分かっていました。
でも私は貴方が普段くれる優しさに親しみを抱いてしまっていました。ごめんなさい。
安室さんがもう必要ない、と言うのなら私は貴方の前から消えます。
私はあの時の事を誰かに話したりは決してしません。
根拠も無いのにこんな事を言って信じられないかも知れせまんが。
荷物は運びきれなかった分は処分をお願いします。
最後までこんなことを頼んでしまってごめんなさい。
今まで本当にお世話になりました。─
グシャ、と音をたてて安室は便箋を握った。
ふざけるな
なんで俺の傍から消えるんだ
監視なわけないだろ
必要ないわけないだろ
こんなにも愛しているのに
でもこんな結末になってしまったのは全て自分の行動のせい
彼女はあの時からずっと監視だと思って俺と一緒にいたのか
好き、という言葉も彼女には届いてなかったのか
何をやっているんだ俺は
今更後悔しても遅かった
彼女はもうこの家には戻ってこない
自分のせいで大切な人を失ってどうするんだ…
安室はその場に座り込んだ。
そして、はぁとため息をついた。
昨日まではここにいたのに
おかえりなさいって言ってくれたのに
キスだっていつでもできたのに
彼女がいないなんて…
彼はぐしゃぐしゃになった便箋を見つめた。
このまま逃がすわけないだろ