第9章 感受※
脱衣所で服を脱いで先に浴室に入る。
軽くシャワーを浴びて身体を洗い流す。
すでに安室さんがお湯をためてくれていたらしく、私はゆっくりとお湯に浸かった。
1日の疲れがお湯に流れていく気がした。
しばらくして外に人の気配がした。
私は1人で足を伸ばして入っていたので浴槽の右側へと移る。
なんだか今になって恥ずかしくなって、体育座りで膝と体をぎゅっと腕で引き寄せた。
─ガラッ─
「そんな小さくなってどうしたんですか」
安室さんが中に入ってきてシャワーを浴びる。
髪が水の重みで下に垂れていつもとなんだか雰囲気が変わる。
蛇口をキュッと閉めて前髪をかきあげる。
その仕草に心臓が跳ねた。
髪から滴る水滴も身体に流れる水も全てに目を奪われた。
「見すぎですよカホさん」
突然こっちを見られ目がバチッと合う。
まさか急に向かれると思わなかったのでどうすることも出来ずにそのまま固まる。
「み、見てないです」
「視線を感じたのでそうかと思ったんですけどね」
安室さんが浴槽に入ってくる。
水かさが増してさっきよりも身体がお湯に浸かる。
しばらく2人とも何も発さず、私はシャワーから垂れる水滴を見ていた。
「こっちに来ないんですか」
横から声がして安室さんの方を向くと彼は浴槽のふちに肘をついて手に顔を乗せてこちらを見ていた。
「恥ずかしいので嫌です」
「カホさんが前を向いていたら大丈夫でしょう」
だめですか?、と安室さんは子犬のような目で懇願してくる。
どこでそういう技を手に入れてくるんだろうか。
この人は相手がどうすれば折れてくれるのか分かっているんだろうな。
そう思うと安室透という男が怖く見えた。
「わかりましたよ」
「ふふ、そうしてくれると思いました」
どうぞ、と安室さんは浴槽の壁に背をつけて私が入るスペースを空けてくれた。
私はその間に入って安室さんに体を預ける。
待ってこれ全然恥ずかしい
身体同士が密着して安室さんの心臓の音が背中に伝わる。
トクン、トクンと一定のリズムを刻んでいる。
私の心臓はさっきから煩いのでばれないように平然を装う。
安室さんは後ろから私の肩を抱いて自分の方に引き寄せた。
そして頭を私の肩に預ける。
髪の毛が触れてなんだかくすぐったかった。