第7章 願望
ここはマンションの駐車場。
誰かに見られるかもしれないこんな所で大の大人がキスをしている。
やめさせようと思ってもキスは激しさを増してくるし、私も抵抗する力はなかった。
どれくらいたったのだろうか。
彼の唇が離れていくのを感じて、終わったんだ、と気づく。
「こういうことをされていたのかと」
彼は濡れた唇を舌でペロッと舐める。
ぼーっとした頭でそんな仕草すらかっこいいと思う。
「そんなわけ、ないじゃない」
「パーティーでもしていたあなた達が密室の車の中ではしないと?」
「あれは、そんなんじゃないの」
「なら、どういうことですか」
「あれは、その、私のグラスの中に媚薬が入ってたの」
そう言うと安室さんは目を見開いた。
「あの男のグラスを受け取ったのって、カホさんだったんですか」
「運の悪いことにね」
昨日言おうとしたけど安室さん聞いてくれなかったでしょ、
と私が言うと安室さんは申し訳なさそうな顔をした。
「それで、あの男にその熱を鎮めてもらっていたと」
「そう、だから別に彼とはそーいう意味でしていたんじゃない」
私が好きなのはあなただけなのに、そんなことするはずないじゃない。
「随分と激しいキスをされていたのでつい」
「言わないで」
安室さんはふっと笑って、チュッと軽くキスを落とす。
「僕から逃げていってしまうのでは、と思いました」
安心したような表情。
そんなことするわけない、という言葉はそっと奥に飲み込んだ。
「カホさん今日は何を食べたいですか」
「安室さんは何が食べたいんですか」
「僕はカホさんが食べたいものを食べたいです」
「なんかちょっと気持ち悪いですね」
「ひどいですね、でもほんとですよ」
周りから見れば恋人。
一緒に住んでいるし、キスもしてセックスもしている。
でもそこには他の恋人と違うものがある。
愛情があるかないか
私たちの間を繋げているのは目的
こんな生活を初めてもう2年が経つ。
私はほとんど不自由なく生活できている。
あなたの本当の恋人になりたいの
これは私の小さな小さな願い。
私だけの、禁断の願い。