第5章 記憶
「さあ、まずはどこから行こうかしら!」
会場に入るとすでに人が溢れており、奥の方にはビュッフェ形式の料理が1列にずらーっと並んでいる。
園子ちゃんはローストビーフを手前でカットしてくれる列に一目散に並んでいった。
周りを見るとよくテレビで見る俳優さんや政治家などもいた。
園子ちゃんって本当にすごいんだな…
改めて鈴木財閥の力の凄さを知った。
私も食べたいものをいくつか口にしながら、パーティーは中盤に差し掛かった。
園子ちゃんはお知り合いの人が結構いるらしく、蘭ちゃんも彼女について回っている。
私は喉が渇き、シャンパングラスの置いてあるテーブルへと足を運ぶ。
テーブルには1本のシャンパングラスが置かれていた。
私が手を伸ばした時、右側から別の腕が伸びてきた。
「あ、ごめんなさい」
「いえ、僕の方こそ…」
私がその人へ顔を向けるとその人は目を見開いた。
え、なんか顔についてるのかな…
目の前の人は眼鏡をかけ髭を生やした40代ぐらいの男性。
私の記憶ではこの人に会ったことはないと思うが…
「あ、あの、顔に何かついてますか?」
「え?」
「いや、顔を見たとき随分驚かれてたので」
「あ、すいません、随分とお綺麗な人だったのでつい…」
「あ、ありがとうございます…」
なんだ、びっくりした
「シャンパンどうぞ、」
「いえ、僕の方が譲りますよ」
「大丈夫です、多分直ぐに新しいの持ってきてくれると思いますし」
「ほんとにいいんですか?」
「ええ、貰ってください」
彼はありがとうございます、と言って目の前のシャンパンを手に取った。
「カホさん」
ふと背後から呼ばれた声に振り向くと、そこには沖矢さんがいた。
「あ、沖矢さん。どうかしましたか?」
「あなたの姿が見えなかったのでてっきり迷子にでもなったのかと」
「確かに方向音痴ですけどさすがにこの会場では大丈夫ですよ」
「そうですか、いらない心配でしたかね」
沖矢さんは行きましょうか、と言って私の腰に腕を回した。
「え、沖矢さん…!?」
「男性は女性をエスコートするものですからね」
そう言って彼はふっ、目を細めた。
彼はそのまま歩き出そうとしたので、あ、待って下さいと声をかけて
「では、失礼します、」
と後ろを向いて先程の男性に頭をさげた。