第30章 少年の思惑
カーテンから光が差し込んでその眩しさで降谷は目覚めた。
久しぶりの目覚めの良い朝だった。
こんなにも深く眠りにつけたのはいつぶりだったか
降谷はここ最近の仕事での疲労が昨日とは比べ物にならないほど軽くなっていることに驚くも、自分の首元に触れている柔らかな毛先の感触を感じてその理由に納得する。
視線を少し下げれば未だ眠っているカホの姿。
毛布の隙間から見える彼女の白い肌が寝起きの降谷に昨日の出来事を思い起こさせる。
降谷の腕を枕替わりにして首元に顔を寄せるカホ。
その姿は降谷のだけの特権で誰にも邪魔されることのない時間。
伸ばしていた手を曲げて降谷はそっとカホの肩を抱いた。
触れる体温が温かくて、彼女の温もりを感じて
時たま聞こえる鳥のさえずりが、よりこの幸せな雰囲気を作り出す。
「んっ…」
カホが降谷の腕の中でモゾっと動いて、降谷は正直今の時間が物足りなく感じて
もう少しカホを1人独占する時間が欲しかった、と震える彼女の睫毛を見て思った。
ぼやついたカホの視界には褐色の肌が目いっぱいに映る。
けれどそれが一体何なのか、意識が朦朧とした頭では分からない。
しばらくしてそれが見覚えのある降谷の鎖骨なのだと分かるとカホは勢いよく上を見上げた。
そこには優しくカホを見つめる降谷の姿。
「おはよう」
「…おはようございます」
自分の今の姿が恥ずかしくて、思わずカホは降谷に敬語になってしまった。
1つのベッドで密着しては触れている肌の面積が広くて、降谷の体温も伝わって
何より昨日の夜の降谷との情事を思い出さざるを得ない光景が嬉しさと戸惑いを感じさせた。
降谷はそんなカホの心情は表情から手に取るように分かって、それがまた可愛くて
自分には幸せすぎる朝だな、とそう思った。
「身体、大丈夫か」
「身体…?…あ、…大丈夫…です」
降谷の優しさだと分かっていながら顔に溜まった熱を逃がそうとしていたカホはその言葉でまたもや昨日の事を浮かべてしまって
「敬語取れたと思ったんだけどな」
「え?」
「昨日の夜は普通に話せてたのに」
「…!あ、あれは…」
カホが慌てる様子を見て、ん?と尋ねる降谷はやはり楽しそうに見えた。