第29章 初めて※
「降谷さん…」
呼吸を落ち着かせながら涙目でカホは降谷の名前を呼んだ。
その姿に先程から耐えつつあった降谷の理性が揺らいだ。
冷たく固いリビングの床に降谷はカホを押し倒した。
カホは一瞬何が起きたのか分からず大きく瞬きをしたが、視界に映った降谷の瞳はかつて何度も見た事のある、欲情に燃えた、熱い瞳。
降谷はカホの首筋を見た。
その白い首筋に吸い付いて、自分の跡を付けたい。
下からなぞって、甘く甲高い声を鳴かせたい。
視線はカホの唇に移り、無意識のうちに降谷は指先で彼女の唇をなぞる。
「んっ…」
カホのくぐもった声に、降谷はハッと今の状況に気付かされて
カホが自分の方をじっと見つめているのに気づいて
「すまない…」
カホの事になるとすぐに理性が抑えられなくなる自分はどうなのかと
けれど、カホが近くにいれば、触れたくて
涙ぐんだ瞳を見せられれば奥から湧き上がる何かがあって
好きで、好きでたまらない
自分しか視界に映らなければいいのに、と
降谷と呼ばれただけで、こんなにも、想いが溢れそうで
重いな、
降谷は胸の内に秘められた異常なカホへの執着に気付かされて
自分は、こんなにもめんどくさい男だったか、と。
「降谷さん」
ふと名前を呼ばれ、どうしたのかと口を開こうとしたがその前に降谷の唇に触れた柔らかな感触。
チュ、と音を鳴らしながら離れたそれ。
視線を交じ合わせながらカホは降谷に言った。
いいですよ、と。
それが何を指しているのかなんて言われなくても分かって
降谷はカホを抱き上げると自分の部屋の方へと足を進めた。
ガチャ、とドアの開く音が聞こえたかと思えばカホはすぐさま背中に柔らかな感触を感じた。
見上げた視界には降谷が移り、その奥には天井が見える。
離れていた降谷の顔はすぐに近づいて、唇にさっきと同じ柔らかい感触。
降谷の舌先がカホの唇を舐めて、その度にカホは微かに震えて
少し開いたカホの口に降谷の舌が滑り込んで
「んっ…はっ…」
薄れていく理性の中、カホの頭に赤井の姿が浮かんでそれはゆっくりと、消えた。