第26章 それぞれの気持ち
次の日、カホは授業中にボーッと窓の外を眺めていた。
正確には眺めていた、と言うより考え事をしていたのだが。
先生が何やらずっと話しているのは分かるが、果たしてその内容がどれほど頭に入っているのか。
カホの意識は先生の話よりも、昨日自分を助けてくれた彼の方にあった。
昨日から自分を見送ってくれた後の彼の後ろ姿が頭から離れない。
また今日も来てくれるかな、と期待してしまう自分をカホは否定することができない。
今までこんなにも誰かがカフェに訪れてくれるのを待ち遠しく思っただろうか。
それは自分を助けてくれたからなのか、
いや、もっと前からじゃないのか
彼が来るのを待っていたのは
結局ほぼ授業中は赤井のことを考えて終わりのチャイムの音を聞いたカホ。
昼食の時間になってカホの元に1番の友人であるエマがサンドウィッチを片手にやってきた。
「今日ずっとボーッとしてるじゃない。どうしたのカホ?」
エマは近くのクラスメイトの椅子を借りてカホの席の近くに腰掛ける。
「うーん、いや、ちょっとね」
「何、何か悩み事でもあるの?」
カホはカバンからお弁当箱を取り出す。と言ってもタッパーを4つに区切ったもの。中身はクラッカーと茹でた野菜とフルーツ。朝時間がない時は大抵カホのお弁当はこんな感じだ。
「バイトのこと…というか、そのお客さんのことというか」
「何か嫌なことでもされたの?」
「ううん、全然そんなことじゃないの。むしろその逆で私を助けてくれたんだけど、」
「うん」
エマはサンドウィッチを口いっぱいに頬張る。その食べっぷりは見ているこちらからしても気持ちがいい。
「今まで自分の中でお客さんはみんな同じだったの。大事なお客さんで、また来てくれるようにって思って接してた」
エマはカホの言葉にサンドウィッチを頬張っていた口をピタッと止める。そして口の中を急いで空にして笑みを浮かべてカホに尋ねた。
「もしかして、その人を他のお客さんとは同じに見れないってこと?」
「ま、まだそんなこと言ってない…」
「そんなん聞いてりゃ分かるわよ!で、そのお客さんって言うのは男?女?」
「お、男の人…」
カホの答えにエマは目をキラッキラに輝かせた。