第4章 友達
安室透は午前3時過ぎに帰宅した。
カホはもう寝ていることだろう
なるべく音を立てないように廊下を進む。
リビングに入ったところでソファで横になって眠りこけているカホが視界に入った。
まったく…
安室透は着ていた黒のパーカーを洗濯機に突っ込み、Tシャツに着替えて再びリビングに戻った。
カホをベッドへ運ぼうとソファの前に膝をついた時だった。
「お、かあ…さん」
消えそうなカホの声が耳に入った。
安室はカホの顔へ視線を向けた。涙が乾いた跡があった。
「ひとりに…しないで、」
今度ははっきりそう聞こえた。
安室は涙の跡を親指でなぞった。
自分は最低なことをしている
それは分かっていた。でもこうするしかなかった。
死んで欲しくなかった、自分の傍にいてほしかった。
どうしても手に入れたかった。
監視なんて嘘だ。恋人なんて言ってただ彼女を離したくなかった。全て自分のものにしたかった。
キスだってセックスだって、最低なことは分かっている。彼女は自分を本当の恋人だとは思っていないのだから。
でも自分だけを見てくれている、自分に感じてくれているという状況が自分に優越感を与えた。
誰にも渡したくない
誰にも触れさせたくない
安室は彼女の涙の跡を舌でなぞった。そのまま彼女の唇も端から端まで舌先で舐めた。
少し濡れた彼女の唇を見つめ、自身の親指でそれを拭う。
そしてそのまま自分の口元に近づけ、舌先で親指を舐めた。
依存しているんだろうな…
安室は彼女の腰と膝裏に腕を入れ横抱きにすると彼女の部屋のベッドまで運んだ。
彼女の机には家族3人で並んでいる写真がある。真ん中にいる彼女は幸せそうな笑顔をしている。
俺はあんな笑顔をさせたことがないな、
させてやることができるのか、この先
いや、いつか必ず
安室はもう一度カホの寝顔に視線を落とした。
そして頭を優しく撫でた。存在をしっかり確かめるかのように。
その時の彼は切なそうに目を細めて笑っていた。
しばらくして彼が扉を閉める音が、パタン、と聞こえた。