第25章 はじまりは小さなカフェで
今日もいつものようにバイトに励んでいたカホ。
ベルの音が響き、カホの顔には自然と笑みが浮かぶ。
いつのまにか、ベルの音が鳴ればその音に反応するかのように口角が上がるようになったカホ。
お客さんに笑顔を向けるのは当たり前。
けれど今日は、今回は、いつもとは少し違った。
作られたいつもの笑顔ではなく、心の底から自然に出た笑み。
扉を開けて入ってきたのが彼だったから。
カホは赤井の姿を視界に入れた途端、胸の奥から何かが湧き上がってくるような、そんな感覚を覚えた。
その時カホは思い知らされたような気がした。
私はこの人が来るのを待っていたのだ、と。
でもそれ以上は分からなかった。
なぜ彼を待っていたのか、どうして他の常連のお客さんが来てくれた時とは違う喜びを感じるのか。
どうして彼だけに、こんな気持ちになるのか。
カホの胸の内はもやついていた。
こんな感情を今まで経験した事がなかったから。
でも今カホはバイトの真っ最中。
のんびりとそんなことを考えている時間があるはずもなく、カホは目の前の赤井の接客に身を引きしめた。
数秒後には先程の考えは既に頭から消えていた。
しばらくしてアーサーが店に入ってきた。
彼は昨日、普通にコーヒーを飲みにこの店に入った。
コーヒーを飲みながらゆっくりと腰を下ろしていた時にふと視線を店内にやった。
視界に入ったカホの姿。
自分好みの容姿と汚れを知らなそうに純粋に笑う彼女。
アーサーは久しぶりに燃え上がるような欲望を感じた。
カホの姿を見つけてからはコーヒーが冷めるのも気にせずにただ彼女の姿を目で追い続けた。
アーサーは一方的にカホを見ていた。
彼女からしたら彼はほとんど初対面にすぎない。
にも関わらず次から次へと質問を投げかけてくるアーサーにカホは良い印象は持てなかった。
決定打になったのは車で送ると言われたとき。
怖かった。
目の前のアーサーが怖かった。
助けを呼べない状況で彼から言い逃れ出来る気がしなかった。
アーサーの目を逸らせないまま言葉が上手く出てこなかった。
そんな時だった。
赤井がカホに声をかけたのは。