第25章 はじまりは小さなカフェで
赤井がそのカフェに入ったのはただただ落ち着いた場所でレポートを書きたかったからだ。
別にそのカフェじゃなくてもよかった。
たまたま近くにあったのがそのカフェだった。
赤井は軽く視線を看板に向けて店内へと足を踏み入れた。
当時21歳だった赤井は1人でアメリカへ留学していた。
最初はイギリス英語とアメリカ英語の違いに多少の違和感を感じたが、それもすぐに無くなり現地で1人で生活して行く余裕が生まれるのにそう時間はかからなかった。
元々人と積極的に関わるタイプではない赤井は授業内での人とのコミュニケーションを除いて普段は大抵1人でいる事が多かった。
人と関わる事が嫌いなわけでは無いので話しかけられたら話す、という感じだった。
大抵の事は何でも1人でこなし、成績も優秀。
加えて周りと比べて大人びた雰囲気を持っており顔立ちも端正。
入学してから赤井の噂が大学内の女子達に広まるのは必然的だった。
けれど赤井は恋愛というものに当時興味が無かった。
高校の時に告白された何人かの女子とは付き合ったものの今ひとつ人を好きになるということに理解できなかった。
だから赤井が付き合っていた彼女に好き、と言ったことは一度もない。
相手がどれだけ赤井に好き、と伝えても赤井は同じ返事は返さなかった。
いや、返せなかった。
それに不満を抱いた女がしつこく赤井を責め立てた。
それを毎回のようにされるうちに赤井は恋愛は厄介なものだと認識するようになった。
大学ともなると露出の多い女やきつい香水を身体中に纏った女が毎日のように赤井に近づいてきた。
中にはミスコン優勝者などもいたが赤井はそんな人でさえ目もくれなかった。
大学にいれば女が用もないのに自分に話しかけてくる。
出された課題はその日のうちに終わらせてしまいたい赤井にとってその行為は迷惑でしかなかった。
だからその日も授業が終わって赤井はすぐに大学を出た。
そのまま帰ってもよかったがたまには落ち着いたカフェで課題をやるのもいいなと思い、いつもと違う道を歩いた。
ふと小さなカフェが目に止まった。
外から見ただけだが赤井好みの雰囲気だった。
ここでいいか
そう思った赤井はカフェの扉を開いた。
チリンチリン、とベルの鳴る音が響き、中からはコーヒーの匂いが赤井を出迎えた。
「いらっしゃいませー」