第3章 居場所
彼の言葉に思考が止まった。
彼は今なんと言ったのだろう。
「理解出来てないようですね」
「はい、全然分かりません」
「本来なら僕はあなたを殺さなければいけません。会話も聞かれ、恐らく遺体も見ている。1番は僕の顔を見てしまっていることですね。」
「ならここで殺せばいいじゃない」
そう言うと彼はまた黙った。
そしてしばらく何か考えるようにして、
「もしあなたが僕の恋人になってくれたら僕はあなたをここで殺す必要がなくなります。恋人という肩書きですが、あなたを監視することができる。もちろん、ここであなたが聞いたもの、見たもの全て口外しないというならばですが」
「好きでもない人を恋人にできるんですか」
「言ったでしょう?監視目的ですよ。僕に不利な事をしなければ特にあなたを縛る事もしません」
「…どうして殺さないの」
1番の疑問だった。そんな監視までするならいっその事ここで殺してしまった方が彼には有利だろう。
彼はふっと笑った。
「あなたをここで殺せばあなたの職場には連絡が行き、少なくとも事件として捜査されるでしょう。でも、あなたは周りに何もないと言った。だったら僕があなたをどうしようと干渉するものはいませんよね?そちらの方が僕としては都合がいい。まあ1番の理由は…そうでね、今はまだ…」
どうします、?と彼は再び尋ねた。
どうしたらいいのだろうか。
確かに家族も恋人もいない私は今後自分の生活がどうなろうと気にかける者もいない。それに仕事には変わらず行けるのであれば、周りから見れば今まで通りの生活、ということになる。
まだ来るな、ということなのか
お母さんとお父さんがそう言った気がした。
居場所がなかった。求めていた訳では無い。2つとも急に目の前から消えていった。自分1人が真っ暗な暗闇にポツンと存在しているようだった。
仮の居場所ができた
おかしな話だけど彼の言葉を聞いてどこかそう思ったのだ。
いつか彼が消えていくのは最初から予想がついていた。だからまだマシだった。突然いなくなるよりはそのつもりなのだと分かっている方が。
「分かりました、あなたの都合のいいようにして下さい」
私は彼に好意を抱くことはない。だから彼が大切な人になるはずがない。
もしまた居場所が無くなっても…大丈夫だ。