第22章 静寂
カホがベッドで眠る横でゆっくり安室は起き上がった。
彼女の頬には涙の跡
手首は少し赤くなってしまっている
さっきまでの行為を思い出してやり過ぎてしまったと少し後悔した。
けれどそうでもしないと今日はカホは自分を求めないと思っていた。
あんな別れ方をして1ヶ月間音信不通で
やっと会えたと思えばカホは以前より自分に素っ気ない
もう無関係だとばかりに話を終わらせようとして
離れたくなくて思わず彼女にキスをした。
その後告げられた、さようなら、と言う彼女の言葉
取り残された車内でぽっかりと心に穴が空いた気分になった。
このまま本当にカホとはこれが最後なのか、と。
俺の中でそれはどうしても受け入れられなかった。
罪悪感を感じながらもキスをしながらカホの襟元に付けた盗聴器と発信機。
それが今日の自分の行動を決めたと言ってもいい。
時間が経つにつれて嫌な予感がした。
カホの降りる駅、足を進める通り
まさか、とは思いながらもパソコンに映し出された発信機の場所は自分にとって一番望ましくない場所。
工藤邸
今となっては大学院生の沖矢昴の住まい
嫌というほど調べたその場所
そこにカホは入っていった。
玄関の開く音がしたと思えば
どうしたんですか
と男の声。
その後に聞こえたリップ音
何度も聞いたことのある彼女のくぐもった声
盗聴器の向こうで二人が何をしているのか、想像するのは簡単だった。
無意識のうちに爪を噛んで、目の前が嫉妬に狂いそうになって
普段からキスをするような仲じゃ恐らくカホは沖矢昴に抱かれているんだろうと思って
自分の感情が爆発しそうになっている時にパソコン上から彼女の反応が無くなった。
イヤホンからも何も音が聞こえなくなった。
ばれたか
そもそもあの男に気づかれるのは時間の問題だと思っていたのでそれに関してはどうでもいい。
カホの居場所と住んでいる相手
それが分かったのは大きな進展だが
それがよりによって自分が今一番気にかけている男の場所
自分が何をするべきか、そんなのすぐに検討がついた。
沖矢昴の所にこのままカホをいさせる訳にはいかない。
それは一日たりとも、あいつの近くにはいさせたくない。