第21章 拘束※
「目が覚めたんですねカホさん」
彼は私の方を見て微笑みながらそう言った。
逃げろ、と頭の中で警告が鳴る。
けれど私の手首に嵌められた真っ黒な手錠はそれを許さない。
ただ頭上で音を鳴らすだけ。
「そんなに怯えないでくださいよ」
彼は微笑んだままそう言ってベッドへと近づいてくる。
片膝がベッドに乗せられて、ギシッと軋む音がした。
「そんなに僕が怖いですか?」
彼は目を細めて、微笑んで、どこか楽しそうで
怖かった
何を考えているのか分からないその顔が
彼の右手が私の顔をスっと撫でた。
思わずビクッと顔が強ばった。
「せっかくまた会えたのに」
会えた?
私はもう安室さんには二度と会わないつもりだった。
それは自分の為でもあり、安室さんの為でもある。
必要ないって
勝手に私が勘違いしてただけだって
だから、貴方の前に現れないように
会いたくても声が聞きたくても、我慢して
貴方を忘れようとしてた
それを安室さん
貴方はいつも簡単に崩れさせる
私の気持ちにお構い無しに
ずかずかと私の心の中に入ってきて
分からない
分からないの
貴方の本心が
心の奥が
「…分かりません。安室さんが、何を考えているのか…私には、全然分からない」
そう言うと彼の顔から笑みが消えた。
「…分からない?」
そう言った彼の声はさっきとは違って
少し苛立っているように聞こえた。
「それはこっちのセリフですよ」
彼は私の上に掛けられた毛布をバサッとはいだ。
「やっ…」
毛布の無くなった肌は外気に晒され僅かな冷気を敏感に全身で感じる。
その格好はやはり自分の想像通りで
そのまま彼は私の体の上に馬乗りになって私の胸元をトンと指さした。
「なんですか、これ?」
彼が指さしたのは昴さんから付けたられたキスマーク。
そこで私は初めてああ、そう言えば付けられてたんだと認識する。
「ここだけじゃありませんよね、ここも…ここも、こんなところまで」
彼は昴さんに付けられた跡を指で順になぞって行く。
首、胸、お腹、脚、内腿…
「どうやったらこんなところまで付けれるんでしょうね…」
ねえ、カホさん?
そう聞いた安室さんの顔は笑みが浮かんでいた。
それは青い、彼の瞳を覗いて…