第19章 忘れさせて※
「…カホさん、」
沖矢の声にカホは俯いていた顔を上げる。
涙で濡れて、目は少し赤くなっている。
沖矢はカホの涙を指で優しく拭った。
「何があったのかは…詳しく聞きません。本当は…凄く気になりますけど」
「…ごめんなさい」
カホは言えなかった。
色んな感情が入り交じってちゃんと伝えられる自信も無かった。
苦しい、逃げたい、辛い、会いたくない、会いたい、嬉しい、まだ…貴方が好き
彼に会って溢れ出した気持ち。
彼の顔を見て、自分の想いを再確認して、
名前を呼ばれた時には自分の心臓は跳ねていた。
こんなの…こんなの…どうしたらいいの
忘れられるの?本当に、彼のこと
これから先、またこんな思いをして彼を思い出すの?
「…昴さん」
カホは沖矢の目を見て彼の名前を呼んだ。
その声は震えていて、弱々しくて、消えてしまいそうで
「何にも考えたくない。嫌な事も…全部忘れたい…」
「…カホさんがそれを望むなら、私は手を貸しますよ」
沖矢はカホの唇を指でなぞった。
「こんなの、こんなの…最低だって、私…昴さんに最低なことしてる。許されることじゃない…利用みたいな、こんなこと…」
カホは沖矢になんとかして伝えようとした。
自分のして欲しい事と、気持ちは矛盾している。
それを望みながら沖矢には失礼だと口では言う。
「いいんですよ、私はカホさんが好きなんですから。貴方が望むことならなんだって叶えてあげたい。例えそれが利用だとしても、カホさんが望むならそれでいい」
「ごめっ…なさい…」
「謝らなくていいんです。嫌なこと、忘れたいんでしょう?」
カホはその言葉にコクンと小さく頷く。
「なら言ってください。私にどうして欲しいのか、ちゃんとカホさんの口から」
カホは口をゆっくりと開ける。
「…忘れさせて」
「何も考えられないぐらい、溺れさせてあげますよ」
沖矢はカホの唇を奪った。
呼吸が出来ないぐらい、離れては降ってくる沖矢の唇。
それをカホは必死に受け止めた。
沖矢の舌がカホの口内に侵入してすぐに彼女の舌を見つけた。
器用に絡め取られたカホの舌先は逃げ道を無くした。