第21章 夜の夢ー幸せー
巌勝様に突然町に連れていかれた。
何でかなあと思っていると、綺麗な着物が飾られた店の前で立ち止まる。他にも似たような店はあるのに、その店に。
「すまない」
中に語りかける。のっそりと動く女店主が店から出てきた。
「あい、お侍様。」
「この娘に合うものを何か。」
「承知しました。」
そして、巌勝様はとん、と私の背を押した。
「好きなものを選べ」
「…あの」
「私は外にいる」
彼はそのまま外に行ってしまった。まさか店に私を置いていくつもりかと思ったが、金銭を渡していないのでまた戻ってくるのだと信じた。
「さ、何がよろしゅうございますか。今のお召し物は少々小さく見えますね。」
のっそりと動いていたのに着物のこととなるとてきぱき動き出した。
巌勝様に拾われてから、着ているものなど気にしたことがなかった。…気をつかわせてしまったのだろうか。
その後、店主の言葉に首を縦に降り続けているうちに、着付けと髪結いが終わった。
「とってもおかわりになりましたよ。」
店主がにこりと笑う。
「………こんなに上等なの、着たことがありませんわ。なぜか動きやすい…。」
「あのように体に合わぬものを身に付けていれば動きづらくて当たり前です。」
?そうなのかしら。知らなかった。
「着物も男物だったし、きっと難しい事情があって、お侍様はここに来られたのねぇ。」
女店主はその後、またのそのそ動き出して、お茶を飲ませてくれた。
「…私、あのお方に拾われたのでございます。」
「まあ、さようで…。」
「いまだあのお方のことがわかりませぬ。」
ひたすらに何かを求める反面、ひどく無感情で虚無な一面がある。けれど、確かに、奥底に優しさが垣間見えるようなお方。
「終わったか」
茶を飲み干す頃に巌勝様がいらっしゃった。私はその姿を見て、逃がすまいとその裾にしがみついた。
「礼を言う、店主。これで足りるか。」
「ええ、十分にございます。」
金銭を渡し終えた後、店から出た。
私は女店主に軽く手をふった。やはりのっそりと手をふり返された。