第16章 憂い
「わかったから、それ以上言うな。」
髪の毛をかきみだすように乱暴に頭を撫でられた。
「わかってやれなくて悪かった。」
実弥が静かに、ゆっくりそう言った。
紛れもない本音だった。
「…諦めたら良いなんて言っちまって…ごめん。」
私はぎゅーっと抱きしめ返した。
「…俺もな…子供は欲しいって思ってた…。」
「……うん…。」
嘘などない、本当の言葉だった。
「子供ができないってお前に言われた時、俺はそれでもといたいと思ったんだ。」
「……。」
「子供は欲しいぜ。お前に似た女の子可愛いだろうし、男の子イケメンだろうな。きっと、お前との子育ては楽しいと思う…。…でも、それが絶対じゃないんだ。」
実弥は続けた。
「例え子供がいてもいなくても、俺が生涯愛し続けんのはお前しかいねえ。」
「……実弥…」
「……それじゃ、ダメか?」
男の子か女の子かわからないけど、子供と手を繋いで、実弥と道を歩く。
そんな、ささやかな夢。
私はその夢を叶えられない。私と一緒にいると実弥も叶えられない。
きっとこの世に存在する、子供のいる家庭を恨むだろう妬むだろう。そして、雛鶴さんが言ったように私が悪いのではないとしても、実弥に申し訳ないって思いながら生きていくことになるのだろう。
「………実弥との赤ちゃん、抱っこしたかったな…」
「…そうだな」
「実弥はきっといいお父さんになれるよ…」
「だろうな」
「それなのに、本当にいいの?」
「いいさ。お前がいない人生よりかは、ずっと。」
実弥が優しいので、やはり私はそれに甘えてしまう。
でも、実弥には我慢や迷いはない。それはわかる。
「……ありがとおぉ…!!」
「おう。泣くなよ、パジャマ濡れるから。」
「泣かせてよお、意地悪おはぎ野郎…!」
私が泣いて、パジャマを濡らしても。怒らずに側にいてくれる。
実弥は、そういう人なんだ。