第15章 寂しさ
「不死川くんは、男の子だから…ちょっとわからないのかもしれないわ。彼は父親になれるけれど、自分で産むわけではないでしょ?」
雛鶴さんが言う。
「…そう…なんでしょうか」
「子供がいなくても良いって言ってくれるのはとっても素敵なことだと思う…けど、出産って、男女が協力してするものなのよ。妊娠できない辛さとか、そういうのもわかり合わないとうまくいかないものがあるんじゃないかしら。」
「……妊娠できない…辛さ。」
「部外者が言うことじゃないけど…もっと、話し合った方が良いんじゃないかしら。そう感じたわ。」
雛鶴さんが続ける。
「不死川くんに申し訳ない、後ろめたいって思って、自分の話できてないんじゃない?」
「そう…かもしれません…」
「ちゃんがもっと遠慮しないで話してみるのも大事なことよ。…体のことだもの。誰も悪くないの。ね?」
雛鶴さんが暗闇の中でも微笑んだのがわかった。
その微笑みに、なんだかホッとして、体の力が抜けていくような気がした。
「………私…悪くない…」
「そう。申し訳ないとか思わないで、遠慮なく偉そうにしていたらいいの。」
「………。」
「そうしたら、少し楽になるんじゃない?」
雛鶴さんに言われて、何となく、気分が軽くなった気がした。
実弥の、真剣な、本気のプロポーズを断って、あんなに優しい言葉をくれて、あんなに優しい人を怒らせて、泣いてしまった私。
テーブルの上に放置していた指輪はいつの間にかなくなっていて、実弥は何も言ってこなくて。
好きとか、愛してるとか、言ったところで。
私には、それを証明することができない。
私たちは25歳。まだやり直せる。きっとほかにも素敵な人がいる。
それでも。
それでも、私たちは、まだ一緒にいる。
私たちは25歳。
まだまだこの先は長い。明日も見えない前世とは違う。明日がある。鬼はいない。幸せがある。
「私…。」
無我夢中で走り抜けたあの日々とは違うはずだ。
「私、話し合ってみようと思います…」
決意とともにそう言うと、雛鶴さんは頑張って、と励ましてくれた。