第78章 舞う
病院までの道中は生きた心地がしなかった。運転もあらかったかもしれない。しかし、なんとか正気を保ちつつ病院に到着する。
受付で霧雨の名前を出すと、看護師が悟ったようにうなずき、急ぎ足で案内してくれた。
集中治療室に通される。
「実弥くん」
爺さんに呼ばれてそちらに目をやった。
「すみません、遅くて」
「いいのよ、ありがとう、きてくれて」
婆さんはボロボロに泣いてに抱きついていた。
しばらく会うことが叶わなかった彼女を一目見て、俺は言葉を失った。
たくさんの管が体から伸びていて、訳のわからない機械につながっていた。映画に出てくるロボットみたいだ。
生きているように思えないほど肌が白い。手に触れると、冷たかった。それなのにべったりと汗をかいていた。
顔は悲痛に歪み、苦しそうだった。それなのに目覚めていない。
「」
名前を呼ぶ。当然返事はない。
改めて体と顔に目を落とす。
布に覆われていない、微かに見える皮膚に不思議な痣が浮かんでいた。…俺の体の傷のようだった。まるで、刃物で斬られたような、そんな傷。
「その痣は少し前から出たものです。…皮膚が突然変色しまして、原因が不明です。」
医者が説明をするがそんなものは聞こえてこない。
目の前の、は。
どう見たって死ぬ間際の霧雨さんだ。
あの人は体中傷だらけでボロボロになって青白い顔で死んだ。
「」
名前を呼ぶ。
「、本当によく頑張ったわ。何もしてあげられなくてごめんねえ、おばあちゃんを許してねえ。」
婆さんは孫娘にしがみついて泣き続けた。
爺さんがその体を力なく支える。
脈を表す機械音が一定間隔の音を刻んでいる。
ピッ…ピッ…
その音は、今にも消えてしまいそうに思えた。