第77章 名前を探して
木谷さんは看板から手を離した。
「舞いの継承者は絶えてしまった。それと同時に、長年続いていた鎮魂も途絶えた。」
そして、俺と胡蝶を指差した。
「そうして、お前らや僕みたいな人間が生まれた。」
「…自分のものではない、鬼殺隊の記憶を持つ人間…ってことですか?」
「そうだよ。まあ、ホラー映画とかでありがちな話だけど…。鎮魂って本当に大切なんだ。」
胡蝶の言葉にうなずき、木谷さんは続けた。
「過去が今を呪う。生きている人間に害を及ぼしてしまう。そう、のような被害者が生まれる。」
「でも、呪われるようなことなんて何もしていないわ!私たち、過去を侮辱するようなことは、何も…。」
「当たり前だ。僕らがそんなことをするはずがない。しかし、過去を尊重するための舞いは継承されていない。これは侮辱と言うに十分だ。…時代が進むに連れ、意義が薄れてしまったんだろうね。
それでも、この神社の子供達が本来なら舞いを繋いでいくんだけど。」
木谷さんはため息をついた。
「ご存知の通り、何だか複雑なご家庭事情なようで誰も舞いの奉納をしていないんだ。」
…あの二人のことを考えると当然のことのように思える。あの両親は教えたりしないだろう…失礼だが、そんな気がした。
「だから、魂を鎮めないといけない。多分暴れているのは霞守陽明の魂でも、の魂でもない。…君がさっき言った、阿国という女の子の魂だ。」
「阿国の…?」
「あの子が今の状況を引き起こしている。ずっと…ひどい目にあってきたんだろう。このままでは、誰も帰ってこられなくなる。恐らく霞守陽明はそれに気づいていた。」
思えば、霞守のフルネームを初めて聞いた気がした。…ずっと知ろうともしなかったことを思い知らされる。
「死にかけている人間に寄り添うには死ぬしかない。霞守陽明はを救うために自分の記憶の中へ飛び込んだということ。自らの命を投げ打ってまでの決死の行動だ。」
「…まさか、の夢に介入を!?」
「そうだ。彼ならきっとうまくやる。だからもう、今しかない。」
木谷さんは舞台を睨みつけた。