第72章 たそがれの
霞守は続けて俺に言った。
「すまなかった。」
短くそう言って、霞守は妹とともに部室から出ていった。
追いかけるべきなのはわかっていた。
が、足が動かない。胡蝶も同じなのか、いつまでも畳の上で放心していた。
「何をしている」
気づけば、部室を覗く悲鳴嶼さんが来るまでそうしていた。
「どうした」
胡蝶がぽん、と肩を叩かれてハッと正気に戻った。
「不死川」
俺もそうされてやっと頭が動くようになった。
「最終下校を過ぎたのに、将棋部の部室の鍵が1つ返却されていないから様子を見に来たのだが……。」
それは胡蝶が借りたスペアの鍵だろう。
「なぜお前達がここにいる?何をしていたんだ。」
そう聞かれて、俺たちは顔を見合わせた。
「………いや…ちょっと…」
俺は上手く話せなかった。胡蝶もだ。
霞守のことは話した方が良いのだろうか。だが、誰にでも話せる内容でもない。
「………まあいい。明日から期末試験だ。もう帰りなさい。黙っていてあげよう。お前たちのことは信じている。何も聞かない。何かあるならまた話しなさい。」
悲鳴嶋さんがそう言うので、俺と胡蝶は胸を撫で下ろした。
しかし、黙ったままでいいのだろうか。
霞守は死のうとしていた。確実にだ。
何者なんだろうか。
霞守、お前は、何を秘密にしているんだ。