第71章 青色二つ
昨日は霞守の意外な一面を見た。
何かに悩んでいるようだったが、結局それが何なのかはわからなかった。霞守は何も言わなかったから。
今日もあいつのクラスで授業だったが、いつも通りだった。つまらない問題の質問に来てはヘラヘラしていた。
その日も授業時間が終わって、生徒が帰ったり部活をしたりする中俺は明日の授業の準備のために数学科教室へ向かっていた。
その道中、物陰に隠れる影を見つけたので声をかけた。
「おい、後頭部の校舎で中等部のやつが何してる」
そいつはびくっと体を震わせて振り向いた。
「時透」
そこにいたのは、前世と同じく幼い顔立ちをした霞柱だった。
最初にコイツを見つけたのは悲鳴嶼さんだった。それは中等部の入学式で、とても驚いたという。目があったと思えば話しかけられ、どうやら記憶があったらしいことを聞いた。
「不死川さん」
「……“先生”、な」
もちろん俺のことを覚えているらしく、すぐに話しかけられた。それから何回か話して、たまに笑い話もする。
が、今は教師と生徒だ。
「今なら何にも言わねェ。目ェつぶるからさっさと帰んな。」
「いや、それが…先輩を探してるんです。見つけるまで、見逃してください。」
「あァ?先輩?」
「霞守様です。」
時透が言う。
俺は面食らった。
「霞守?あ…お前が部活っつうと、将棋部か。」
「はい。どうしても対局したいのに全然部活に来てくれないから捕まえようと思って、兄さんと。」
……霞守って部活やってたのか!?ずっと帰宅部だと思ってた…が、様つけられて呼ばれるほど崇められる先輩なのか奴は?
しかも捕まえるって言われてやがる。もはや動物園を逃げ出した動物じゃねえか。
「げ、不死川先生」
後ろから似た声に呼ばれて振り返ると、そこにいたのは時透…の、双子の兄だった。
前世では知らなかった。コイツは記憶をなくしていて家族の話も知らなかったし、あまり話すこともなかった。ただ、記憶を取り戻してからはよく話すようになったと思って見ていたが。
「二人揃ってかよ。今すぐ戻らねえなら二人とも反省文だぞ。」
「うっわ、お前何見つかってんだよ。」
「ごめん…。」
横に並ぶと本当にそっくりで、見分けがつかないほどだった。