第70章 所有者
次の日。実家から出勤した。
職員室に行く前、朝イチでヨレヨレの制服で教室までの道を歩く霞守を見つけたので、声をかけた。
「おはよォ」
すると霞かみは振り向いた。
「わあせんせ、おはよ。ねえ火曜日が祝日の月曜日って最悪じゃない?」
「何の話だよ。」
「今日やる気ないって話。数学サボったら怒る?」
「当たり前だ。」
霞守はクスクスと笑った。
「それと、今度妹の見舞い一緒に行かしてくれや。お守りの礼がしてェ。」
「ああ、玄弥からもらった?お家でゆっくりできてよかったですねえ。でも、そんなことしないでいいように間接的に渡したのに。」
「俺がしてえからするんだ。いいんだよ。」
「じゃあ、明日行くから病院で。」
「おー。」
霞守はにこりと笑って教室へ向かって行った。
仕事も終わってそろそろ帰ろうかとすると、窓の外は真っ暗だった。
「不死川」
その時に呼び止められて、振り向くと悲鳴嶼さんがいた。
「少しいいか?」
そう言われて二つ返事で頷いた。
気づけば職員室に残っていたのは俺たちだけだった。まだ先生たちはいるけれど、実験室や授業の準備で出払っている。
「明日も行くのだろう、霧雨のところに。」
「…ええ、まあ。」
のことは皆知っていた。顔の広い社交的なアイツのことだ。連絡が途絶えたことを不審がって俺に聞いてきたからすぐに知れ渡った。
「…これを」
そう言って渡してきたのは小さな鉢の花だった。名前もわからないが白色の花が咲いていた。
「花屋の人に、見舞いならガーベラがいいと。白色なら希望という花言葉だそうだ。」
「……直接、渡しに行けば…。」
「それが、明日は難しいのだ。渡してくれると助かる。」
悲鳴嶼さんはいつもそうだった。
直接は見舞いに来ないで、間接的に何かを渡してくる。