第70章 所有者
「それは」
続きを言おうとする前に、胡蝶が職員室に帰ってきた。
「あらあ。素敵な花。どうしたんです?」
「いや、霧雨の見舞いの品にと思ってな。私は病院に行くのが難しくて。」
「白いガーベラ、いいですね。私もそろそろ会いに行きたいわ。今週末にでも…いいかしら?」
「わかった。アイツの家族に聞いてみる。」
俺はチラリと大きなその人を見上げた。
「悲鳴嶼さんもどうです?」
「いや、今週末は忙しい。また今度。」
そう返された。
どうしても嘘なんじゃねえかと思ってしまう。こんなにも都合が合わないものだろうか。
けれど、会いにこないことにホッとする馬鹿な俺もいるんだ。
匡近と再開した日、何の気もなく言われた言葉が思い出される。悲鳴嶼さんとができてたという噂があったと聞いて、俺はもちろん動揺した。
アイツははっきりと肯定することは言わなかった。けど、はっきりと否定することもなかった。
けど、匡近にも聞いたがあくまで噂なのでよくわからないのだと言っていた。まさか悲鳴嶼さんに聞けるはずもなかった。が、二人が話していたり連絡をとっているところを見ると落ち着かなかった。
「すまないな、不死川。」
「いえ。」
ああ、こんな時なのに何を考えてるんだ。
俺は白色のガーベラをしっかりと持ってその日は帰った。
帰るとおはぎは相変わらず取りつく島もなかった。母さんにはあんなに懐いていたくせに、またアイツの部屋で一人で遊んでいたので俺は放っておいてやった。