第69章 たかだか人間
ご飯を食べ終え、久しぶりに実家の自分の部屋で眠った。
俺は夢を見た。
『風柱!!』
上空から鎹烏が飛んでくる。
俺のもとにくる頃には、もう烏は体から血をダラダラと流していて、空からそれが垂れてきて不気味な血の跡を作っていた。
『霧雨さんの烏か…!?』
『そうだ。頼む南南西に向かってくれ、アイツがもう死ぬ。俺は頼まれごとがあったのに最後の最後に巻き込まれちまった。もうダメかもしれないがこのまま本部まで飛ぶ。産屋敷に伝えられるうちに伝えておきたいことがある。』
早口で言ってそのまままた血を垂らしながら飛んでいった。
……まさか。
そんなまさか。今あの烏はなんて言った?霧雨さんが死ぬだって?もう??
南南西。もう太陽が見えている。方角はわかる。
俺は衝動のまま走った。あの烏の言うことを信じる気にはなれなかった。だって、霧雨さんは鬼殺隊最強だぞ。こんなところで死ぬのか。いつも通りの夜だったし、いつも通りの朝がこれから来ようとしているのに。
俺は数分走った。
元々いた場所から近かった。俺が行こうと思えば行けた場所だった。
そこはギリギリ霧雨さんの担当地区で、いつだったかここらへんで鉢合わせたこともあった。
「霧雨さん」
その名を呼んだ。
俺は呆然として当たりを見渡した。
まるで、大災害でも起こったようだった。
地面が所々めり込んだり避けたり、木々は倒れていて、血痕が見えるところもあった。
あるところに目を向けると、黒色の塊があった。何だと目を凝らすと、それは間違いなく人間の腕だった。
細い、女の腕だ。また違うところに目を向けると今度は足が見えた。
霧雨さんは。
あの人はどこにいる。
俺は必死に探した。
すると、倒れた木々の影に俺はその姿を見た。
名前を呼びながら駆け寄った。
霧雨さんは血を流しながら、空な瞳を今にも閉じようとしていた。
名前を呼んでも、どんな言葉をかけても、霧雨さんが反応を示すことはなく。
そのうち勝手に話始めて、ボロボロに泣くので涙を拭ってやった。霧雨さんは泣いて泣いて、最後に一言言い残して、ついに動かなくなった。
最後の涙が土の上に落ちた。
俺は、何もできずにただ眺めていた。