第65章 何処かへ
しかし逃げも隠れもせず、ただ畳の上で座っていた。
『言い当ててやろうか。』
それどころか、笑っていた。
『お前は大正という何百年後の時代に死ぬ。』
男がまた近づいてくる。
『およそ千年、千年だ。それがお前を死へ導くために私が計算した最短の時間だ。せいぜい虚しく意味もない、つまらん人生を生きるが良い。そして死ね。
今ここで。私の目の前で死ななかったことを悔いながら。』
『神の無駄話は長くて困る。結局貴様も役立たずだ。』
まだ笑っていた。不気味なほど、満面の笑みで。
『なあ、お前はいつも死にとり憑かれているなあ。』
まだ意識がはっきりとしていた。
『私はお前を救いたかったよ。けれどな、私は神ではないし、神はお前のために存在しているのではないのだ。』
目の前の男の瞳が揺れた。
『可哀想に。私は涙が出る。お前はこれから先何も得ることはないのに、無駄に長く生き、人を殺す。残念でならんよ。私は。』
そこらで、視界が霞んできた。
『君は私の友達だよ』
『……』
『忘れないでおくれ。この言葉だけは、君が死ぬ大正の夜明けまで。どれだけ君が人間を殺し食らい尽くしても、私だけは友達でいよう。』
どんどん意識が遠ざかっていく。
『……ふふ…覗き見してる子がいるね。』
声も小さくなっていく。
『もう、元の時代にお帰り。』
しかし、その声だけははっきりと聞こえた。
これは、いったい、誰の記憶なのだろうか…