第65章 何処かへ
『そんなに密やかに登場しなくても良いではないか。』
…何だ?
『のう、隠れずとも出てくれば良いではないか。話をしよう。退屈なのだ。』
何だ。
何だこれは。
私は、どこにいる?
何だこの部屋は。全然この場所に見覚えがない。
日輪刀はどこだ?どうやら夜みたいだし、刀がないと。
『……なぜわかった』
誰?怖い声…。
『ああつまらん。お前は少しは面白いことをしてくれるかと思っていたのに、何も変わらんではないか。』
『つまらん?』
『つまらん。ああ今すぐ死ねばいいのに。お前はこの先もつまらんよ。』
ここはどこだ。私…いや、話しているのは私じゃない。でも視線は完全に私のもののように思う。
話しているのは声の低い男だ。
『太陽の下に出ることもなく、つまらん存在のまま死ぬのだ。』
『何を言っている』
見知らぬ男が月光の下で額に血管を浮かばせながら怒っていた。
『つまらん。本当につまらん。お前はどうせ何百年と無駄に生きて挙句に死ぬのだ。いますぐ去ねよ。』
何かが頭に流れ込んでくる。全く今とは違う情景が見える。…何だ?私はいったい、何を…。
『ふん、噂の神の力とやらか。貴様はくだらないことを言わずに、私が太陽を克服する方法を教えれば良いのだ。私が何の支障もなく永遠に生きられる方法を。』
『はっは!そんなものあってたまるか。つまらん。』
目の前の男は更に怒りを露わにした。
が、全くこちらは動じない。
『良いか?思いの外阿呆のようなので言うが、人間とは死ぬ生き物だ。死ぬからこそ生の時間を重んじるのだ。命を繋ぎ、技を伝え、想いを残すのだ。』
落ち着いた声音で話し続けた。
『残した想いは消えぬよ。この先、貴様がどれほどの人間を殺そうが食らおうが、お前は満たされることもありはせぬ。だから今ここで死ぬが良い。』
そう言い終わった後、目の前の男はついに我慢の限界と言わんばかりに一歩、また一歩とこちらに詰め寄った。