第64章 大正“悲劇”ー終ー
私はそっと無一郎くんから体を話しました。無一郎くんは不思議そうに私を見上げていました。
その頭を、撫でてやりました。
「……さようなら、無一郎くん。」
「はい、師範。」
無一郎くんはいつも通り無感情でした。私はにこりと笑って、外に出ました。振り返ることもせずに扉を閉め、そのまま走りました。
ああ、懐かしい我が屋敷も、この景色も、慣れ親しんだ人々も、全て。
全て私は捨てて、行かなくてはならない。
ごめんなさい。けれど、私はもう失ったのです。全てを失ったのです。もう取り戻せはできない、大切なものを、何もかもを、失ったのです。
さようなら。ああさようなら。
さようなら。
無一郎くん。
どうか、お元気で。