第64章 大正“悲劇”ー終ー
屋敷に帰り、門を潜った。
自分の部屋に入ると、全て片付いていた。
私は刀の手入れをして、日が落ちていくのを見ていました。
無一郎くんは縁側でうたた寝をしていたので、私は起こさないように部屋を出ました。
少ししてから、ガラスが私の元にやって来ました。
「…任務だぞ。」
そう言われて、私はにこりと笑いました。
「ええ、行きましょう。」
「……お前が…お前が悪いんだ。」
ガラスは震える声で言った。私は頷いた。
「勝手場にあるもの、何でも好きにしてもらって良いですから。」
「うるせえ、俺はいらん。何にも…何にも、いらんからな。言ったからな。」
ガラスは任務の場所を告げて、どこかへと飛んで行きました。
私は玄関まで行き、草履を履いて扉に手をかけました。
「師範。」
すると、トコトコと足音がして、振り返ると無一郎くんがいました。まだ眠そうです。
「無一郎くん。おいで。話をしましょう。」
私が手招くと、彼は扉に裸足のまま降りてきて、私に近寄りました。
そんな、どこか頼りない彼をぎゅっと抱きしめました。
「…師範?」
私は小さな彼を力一杯抱きしめました。
「ありがとう。」
無一郎くんが弱々しく私の背中に手を回してくる。
「これからたくさん辛いことがあるでしょう。立ち止まりたくなることがあるでしょう。でもそれで良いのです。忘れても、あなたはいつか全てを思い出すのです。」
「?」
「本当は、その時にそばにいたいのですけれど。」
無一郎くんは黙って私の話を聞いていました。理解している気配はありませんでしたが、聞いていました。
「これから私はどこにいても、何をしても、ずっとあなたを想っています。忘れることなどありません。」
「…。」
「自分を信じなさい無一郎くん。強くなりなさい。誰もを守れるように死なせることのないように。鬼殺隊を、霞の呼吸を、頼みます。私はあなたに託します。」
無責任に何もかもを置いていく私を、どうか許してください。
ああ、許さなくても良いから、私を殺したいほど憎んでも良いから、あなたは生きてください。これからも、どうか。