第9章 夜の夢ー巫女ー
「…それは、お前も苦労があったろう」
縁壱さんはそれだけ言って、私を慰めるように頭を撫でた。
「……不気味には思われませんか…。」
「思わぬ。お前の全てがお前をつくりあげているのだ。それらを何一つとして否定するつもりはない。」
「……縁壱さん…」
彼は、よく私の面倒を見てくれる。それは、産まれるはずだった自分の子供と私を重ねていたから。私は知っていた。
父親になっていたら、子供に良い導きをされたのだろう。人徳も力もお持ちなのだから、きっと。
それを鬼は踏みにじった。
師範だって、本当は、家族もおられて、地位も持っていらっしゃって…。
「…しかし、兄上には話した方が良いのではないか。」
「いいえ、可愛い阿国は、そんなおかしな力は持たないのです!」
「……関係ないと思うが。」
縁壱さんが首をかしげる。
私は声を出して笑った。
「私、何があっても縁壱さんには縁壱さんでいてほしいです。」
「…はあ。」
こういう、おっとりというか、そういったところが私は大好きなのです。
「……ほら、もう兄上がいらっしゃる。今日こそ一本とるのだろう。私はもう行くから、訓練に戻るんだ。邪魔をした。」
「いえ、またお話ししてくださいね。」
私は彼の背中を見届け、地面に置いた木刀を握りしめた。
「……縁壱さん、隠していらっしゃるつもりなのかしら」
私は首をかしげた。
縁壱さんは、私が鬼殺隊にいるのをよくは思っていられない。私のところに執拗に来るのも、それが理由。
わかっているけれど、私は気づかないふりをする…のも気づいておられるんだ。
「すまない、阿国。待たせた。」
「師範!!」
私は近づいてくることにも気づいていたけれど、それを隠して振り返る。
師範がそこにいらっしゃった。
「師範、阿国は今日も励んでおります!」
私がにっこり笑うと、師範はほんのわずかばかり、口角を上げられた。