第9章 夜の夢ー巫女ー
「阿国、お前は何か不思議なものが見えたりしていないか?」
ある日突然、縁壱さんに尋ねられた。
突然のことに戸惑っていると、彼は続けた。
「人の筋肉の動きが見えたり呼吸の流れが見えたりしないか。」
ここは自然の稽古場。師範は他の柱と稽古にいってしまって、また私の相手は二の次にされてしまった。
「……いえ、何にも…。」
「素直に言ってくれ。知っての通り、私は見えている。昔私はこれに悩んだ。お前もそうなら話を聞かせてほしい。」
緑壱さんがじっと見つめてくる。
どうしようか悩んだけれど、私は木刀を置いて、緑壱さんが座っている隣に腰かけた。
「私は、ご存知の通り戦孤児ですが元は神社の娘…巫女でした。」
側にいた炎柱の縁壱さんにその話をすると、彼は目を見張った。
「…それは、兄上には話したのか?」
「いいえ……変な子供だと思われたくありませぬ。阿国は“可愛い女の子”でいたいのです。」
師範の姿を思い浮かべるだけで、心が踊る。顔が緩んでしまう。
「……巫女の力だと周りの方々から言われていました。」
顔をきっと引き締めて話を続けた。
「私は、目がよくはありませぬ。耳もさほど良くはありませぬ。…なぜか、見えないものを感じるのでございます。」
「見えないもの?」
「………例えば、緑壱さんには身重のご家族がいらっしゃったとか。」
私は初めてその話をした。
縁壱さんは驚いていた。それがわかった。
当然。私は、その話を彼から聞いたわけではないから。
「人の気持ちや感情、記憶、気配…体の動き呼吸の流れ、それらを感じるのです。」
「……これは…驚いた。」
縁壱さんはそう言った。
私は秘密にしていたことを話してしまい、少しばかり後悔していた。