第58章 大正“浪漫”ー拾ー
刀鍛冶の里から少し歩いて、真夜中に安城天晴の墓前にやって来た。
安城殿の親族はいないので、鬼殺隊が弔った。立会人は私と桜くんだった。
安城殿の師である育手の元へも知らせに行った。
その人は義足の老人で、元鳴柱だった。骨壺にすがり付くようにしてちょっと泣いて、私と桜くんを少しもてなしてくれた。
氷雨くんの師でもあったその人は、弟子を失って悲しんでいた。私達は何もできずに帰った。
安城殿は私を助けてくれた。それで死んでしまった。
そのことで責められることもあった。
「安城殿」
私はあの夜を思い出す度名前を呼ぶ。
そして、桜くんが名前を呼ぶのを止めたことを謝ったあの夜のことを思い出してしまう。
「……安城殿…」
私はうつむいた。
「………私、繋ぎました。次世代に…繋いだのです。」
死んでしまったけれど。鬼殺の意思は後世に託した。
「……もっと色んなことが知りたかったです。」
安城殿は色んなことを教えてくれた。お洒落も化粧も料理も…あまり上手にできなかったけれど、安城殿は怒らなかった。
「………」
私は背を向けた。
鬼の気配がしたからだ。
「……安城殿」
私はまた名前を呼んだ。
「私を救ってくださりありがとうございました」
あなたのお陰です。あなたのお陰で私は鬼として生きていくことができました。
本当に、ありがとうございました。